今回は、着物の汚れに過敏になっていた過去の自分に向けた内容になります。
要旨をお伝えすると、着物が肌に触れないように気をつけても無駄だし、怯えるほど着物に汚れは発生しないよ、ということになります。
もし、着物を皮脂で汚すことを恐れ、着る機会を失っている方がいらっしゃるなら、そっと背中を押してさしあげたい。
着物生活歴4年の経験をお伝えしていきます。是非お付き合いください。
※広告が入っています。読みづらい箇所があるかもしれません・・・。
どうしたって肌に触れる
私は着物を着始めた頃、古着で手に入れた大島紬、つまり正絹の洗えない着物をよく着ていました(実のところ大島紬は洗えると考えるようになったのですが、この時点では私にとって洗濯できない衣類でした)。
↑洗って干している最中の大島紬
そして下には、長袖Tシャツとレギンスを着て、肌を覆い隠していました。
だって肌が着物の袖や裾に触れちゃう!洗えない着物に皮脂汚れがついちゃう!と思ってのことでした。元々ジャケットが好きな人間ですので、シャツの袖はジャケットより長くして、上着を皮脂から守るんだ、という習慣が染み付いていたのです。
なんで襦袢の袖をシャツのように着物の袖から出してはいけないのでしょうか(昔の写真で襦袢が袖から出ている着姿があったり、ハレとケの使い分けだったり、そもそもの議論は今回は割愛いたします)。
そして皆さんには、レギンスも長袖Tシャツもおすすめいたしません。レギンスで足をぴったり覆うと裾捌きを肌で感じられず、着物がはだけていても気付けず着崩れの原因になります。袖から覗くヒートテックは、まるで美しい街並みにぽつんと仮設トイレがあるくらい違和感があります。
そこで私は、長襦袢を誂えて着物の袖と裾を守ることにしました。下に着る長襦袢は着物とほぼ同じ寸法なのだから、肌が直接着物に触れることはないだろうと考えたのです。
結論を言うと、目論見は外れました。素材の違いや皺、摩擦などによって、数cmほど襦袢が短くなってしまうのです。どうやっても手首は袖に、スネは裾に触れてしまい、襦袢ではカバーできませんでした。
放置しても意外といける
その後しばらく、私は汚れを気にして正絹を着なくなり、もっぱら洗える木綿やウールばかり着る日々が続きました。
でも正絹も着たい!
そこで私は考えました。死蔵していても、汚れて着れなくなっても同じ事だと。ならばしっかり着て楽しんで、必要ならお金を出して手入れすればいいと奮起、もとい開き直りました。
そして今や、正絹も普通に着るようになって数年が経過。そんな経験から皆さんに言えることは、「ぜんぜん汚れないんだけど」です。
↑普段に正絹を着る男の様子
食べこぼさないように、水で濡らさないように気を付け、着たらしばらく干して湿気を飛ばしてから畳むという、一定の手間をかけてはいました。しかし袖や裾の手入れなんて特になにもしていないのになぜ…。
特に手首なんて、裄丈の足りない襦袢を着ることも多い私ですから、絶対色々付着しているはずなのです。
巷で噂の、『正絹の自浄作用』なのかと軽く調べてみたのですが、信頼できる情報は見つけられませんでした。参考にした研究では、抗菌作用には懐疑的、むしろ汚れを吸着しやすい特徴があるのでは?と首を傾げたくなるような情報ばかり。
着ないのが一番まずい
そもそも、私も含め、皆さんが想像する汚れた着物って、お祖母ちゃんのタンスから出てきたシミやカビだらけってやつじゃないでしょうか。
↑うちのおばあちゃんの着物の裏地。気にせず部屋着にしています。
でもこれって、皮脂汚れも原因のひとつでしょうが、何より仕舞いっぱなしによる高湿度の皮脂汚れ長期熟成が一番の要因だと、祖母の大量の着物を虫干しして感じました。普通に着ていてあんなことにするのは至難の技でしょう。
そして私は考えました。1回着るのも10回着るのも、皮脂汚れが付くという点で大差ないと。1回だけ着て何年も放置すると長期熟成コースに入ってしまうけれど、定期的に何回も着れば長期熟成コースには進まず、また着物を楽しむという点でコスパもいいのではないでしょうか。
着ることで風を通し、脱いでも陰干しで風を通す。着物に触れる機会が増えれば、もし汚れたとしても早期発見できます。汚れを熟成させないには、着るのが一番なのです。
そもそも着物は『着る物』。そりゃ着たほうがいいのです。
結び
洋服ではシルクなんて全然着ませんから、着物を着始めて急にエンカウントすると身構えてしまうと思います。
クリーニング代がかかるような衣服は非経済的。庶民に正絹着物は合わない。
そう思う気持ちはよく分かります。でも、まずはお持ちの正絹着物を着倒すことが、一番経済的ではないでしょうか。
着るうちに、意外と大丈夫なんだと感じられるはずです。
皆さんの着物ライフが、より一層素敵なものになりますように。
おわり。