古着で着物を始めるなら、必ず触れることになると言ってもいい大島紬。名前だけは知ってるけど、なにそれ?という方が多いのではないでしょうか。私はそうでした。
今回は、大島紬を買ってみたいけどそもそもどんな着物なのか知らない、買った着物が大島紬だったけど、どう着ればいいのかわからない、というお悩みを解決すべく、実際の生地の特徴を主眼に置き、解説していきます。
簡単に言うと、大島紬はいわゆる『素朴な質感の節のある紬』ではない、美しい艶とタフさを兼ね備えた着物。玄人にも好まれる魅力でいっぱいです。買って損することはないと思います。
※ここでは、歴史的背景や希少価値などの雑音は廃し、ただただ着物ユーザー目線で、大島紬の魅力やコーディネートについてお伝えしていきます。
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デザイン
色味は紺、茶などのベーシックなものが多く、たまに緑なんかもあります。
そして、過去の私の記事をお読みになって着物を始めたくなった方には悲報となりますが、大島紬には細かな柄が入っています。無地はありません。より細かい柄をと追求してできたのが今の大島紬なので、無地が欲しいというのはナンセンス。
よくあるのは亀甲柄という細かな模様なので、遠目には無地に見えないこともないです。私には蛇の鱗のように見えます。
これを派手すぎないちょうどいい塩梅の味付け、と考えられれば、ここまで細かい柄は他にはなく、唯一無二の魅力と言えます。
女性ものなら、この細かい柄を集合させた大きく派手な柄の着物もあるので、男物で物足りない方はそっちを探すのも手です。せっかく極限まで小さく柄を織ったのに、それで大きな模様を作るとは…。人間って不思議な生き物ですな。
大島紬の多くは、無地ではないとはいえ細かな総柄です。コーディネートで大きく主張することもなく、色も落ち着いているので初心者さんも扱いやすいデザインだと思います。
艶
大島紬は生地の表情も独特。メタリックで冷たい印象の強い艶が特徴です。細い糸を使っているからだそうで、かと言って繊細で傷つきやすいなんてことはありません。神社で小枝に引っ掛けても、艶が損なわれることはありませんでした。
ここまでの自然な艶を洋服で身に付けるとしたら、男性はレザーくらいしか選択肢はありません。シルクのジャケットとか、憧れるけど飲み会に着ていけませんよね。でも、大島紬ならいけます。艶はあっても自然とその場に馴染みます。何故なのかは私にも分かりません。
似た柄のウール着物はよくありますが、似た艶の着物は見たことがありません。艶が気に入れば、しっかり自分に合ったサイズと色を吟味してから買いましょう。まだまだ古着でたくさん残ってるので、焦らずじっくり宝探しです。
コーディネートでは、艶を引き立たせるか馴染ませるか、の二択が王道です。
例えばウールや木綿のマットな素材の羽織で包んで艶を隠すとか。逆に大島の艶が映えることもあります。ちりめんなどの正絹の柔らかもの(ほんの少し艶がある)と合わせて艶を馴染ませたり。しかし、個人的に大島紬に他の艶素材を組み合わせるのは難しいと感じています。毛色の違う艶同士で喧嘩しやすい気がするのです。
艶だけで色んなコーデの楽しみ方があります。そこも大島紬の面白いところ。
※艶がある分滑りやすく着崩れしやすいです。お出掛けの際は、軽いレベルの着崩れを定期的に直すようにするといいです。帯はざらざらした木綿や織りの角帯を締めると着崩れの程度が和らぐのでおすすめ。
軽く、薄い
艶が強くなるほど細い糸なら、当然生地は軽くなります。そして薄い。軽やかに着るなら、ウールやちりめんより大島紬に軍配が上がると私は思います。
春のうきうきする花の香りや、秋のひんやりした空気。そんな中でしゅっとした着こなしをするにはぴったりです。体のラインを細く見せることができるのも、生地が薄いから。しかし生地には張りがあるので、体のラインは出過ぎずちょうどいいシルエットを作れるのが魅力です。
春や秋の微妙な気温の時にも、大島紬の薄さがありがたい。スカーフやマフラーと併用することで、快適な体感温度に微調整できるのは、普段から着物を着る身には嬉しいです。大島紬で寒いなら厚手の木綿や他の袷着物、暑いなら薄物の出番となるわけで、大島紬はリトマス試験紙、試金石のような存在なのかもしれません。
生地が軽いので、裾が風でひるがえる様子もいとをかし。軽やかになびく様子はまさにTHE☆KIMONO。ちりめんや垂れものとも違った優美で上品な雰囲気は、大島紬を身にまとった第三者を見なければ体感できません。是非お友達に着てもらいましょう。
収納も比較的スペースをとらないし、虫干しなども軽いので楽です。これは着物をたくさん持つようになってからのメリットですが・・・。
しゅっとした雰囲気を出したいとなった時、古着屋で買うなら大島紬は最有力候補。身幅がぴったりなものをお召しになることをおすすめします。
羽織はあえて木綿で素材感に差をつけシルエットに奥行きを出す、上の写真のように垂れものでしゅっとした雰囲気を全面に押し出す、など様々な組み合わせで楽しめます。ただ先ほども申し上げた通り、艶×艶は慣れないうちは難しいかも・・・。
水に強く、汚れは目立たぬ
最後の特徴としては、正絹なのに手入れの手間があんまりかからないことでしょうか。
手洗いなどの水はね程度なら、水滴が玉になって生地の表面を転がっていきます。生地が濡れないのです。大島紬をレインコートにする方もいるほど。水と仲良しな大島紬ちゃん、有能です。一度エマールで手洗いしたこともありますが、全然水が生地に染みてくれなくて苦労しました。
そして汚れも目立ちません。一度古着屋でよく見てみてください。茶色いシミがある着物が見つかるでしょう。しかし大島紬なら、ダークな色で艶が強く、細かな柄が入っているためシミが目立たないのです。
水濡れや汚れを極端に怖がらなくてもいい比較的手頃な値段と、手に入れやすい流通量も安心して着られるポイントです。
洗濯できる?
率直に言えば、お気に入りは洗濯したくありません。普段着なら洗います。
袷の大島紬をお洒落着用中性洗剤で優しく手洗いし、脱水せず自然乾燥させた結果、アイロンをかけても消えないしわが全体につき、艶は消えませんでしたが生地の水気が消失しました。しかし、みっともないというほどではなく、オックスフォードシャツやチノパンくらいの感覚で、しわを気にせず着ることもできる程度でした。
↑自然乾燥中。完全に乾き切る前にアイロンをかけたら結果は違ったのではないかと思います。
↑乾き切った着物をアイロンがけした後。これは生地自体のしわではなく、裏地との縮率の差で生じたひきつれな気もします。単衣仕立ての大島紬なら大丈夫なのかもしれません。
結び
三大紬のひとつであり、世界一とも言われる織り柄の細かい大島紬。柄の細かさによっては、高価だったり凄いと誉めそやされたりしている、熱狂できるだけの魅力のある着物。
でも、まずはご自身のフィーリングが大切です。大島紬だから、ではなくて、私に似合うから、楽しんで着れたら素敵ですよね。
皆さんが素敵な着物ライフを過ごされますように。
終わり。