私はもともと「普通の服」が好きだったのですが、ミニマリストになってからはよりシンプルなファッションを好むようになりました。それは着物にも通ずる、一種の美学のようなものです。
今回は、そんな私が皆さんにおすすめしたい本を紹介します。シンプルきもの/三原佳子著 です。
私の美意識にも通じ、かつ私が言語化できていなかった部分、そして目から鱗が落ちすぎて山になるほどの着物の愉しみ方を教えてくる。さらに、さながら写真集のようにシンプルで美しく、洗練されたコーデの数々を見ることが出来る。
着物コーデがマンネリ化してきた方、削ぎ落としたファッションを好むミニマリストの方。そんな人に響く内容ではないかと愚考いたします。
本書では、著者の三原佳子さんの着付けなど、女性向けの情報も載っています。しかしここでは、着物男子、そしてシンプルな服装が好きな非着物民も楽しめる部分のみ、私の解釈を通して紹介いたします。
※広告が入っています。読みづらい箇所があるかもしれません・・・。
※物欲が刺激される恐れがあります。本書をお読みになる際は、強い心をご用意の上お楽しみください。
コーディネート
シンプルに着物を着る著者、三原氏の定番のスタイルについて触れていきましょう。
ダークトーンの鮫小紋や無地紬などを好んで着用し、フォーマルとカジュアルのバランスは小物で調整しているとのこと。ここで凄いのが、帯の色や織りで調整するのはハレとケだけではないということです。
礼装っぽくなりすぎる色、粋になりすぎる小物、奥行きを出すための帯や濃淡。果てにはボリュームの出し具合やモダンさまで。女性着物でしか使えない小手先の技ではなく、もっと深い思考に、読みながら首を縦に振り続ける私。
私も鮫小紋は持っています。羽織ですが。濃紺の鮫小紋も欲しくなってきてしまいました。
そんな三原氏のベーシックカラーは黒、紺、グレー、茶、ベージュ、白と落ち着いたものばかりだそうです。本書では、個性より「自分らしくいられる色」が大切だと述べられています。激しく同意です。
また、灰色だけで100色もある着物の世界を、四季折々のコーデで見せてくれるコーナーは圧巻でした。色調と素材感で表現する技巧はもはや芸術。グラデーションでまとめるコーデをしたい方にはぜひ見ていただきたい。シンプルコーデの醍醐味がここにあります。
ほんのわずかな「色味の微差」に、最も心を砕いています。
著者のこの言葉は、私のファッションにおける座右の銘にしたいほど。
微妙に色味の違う紺色の着物&羽織で奥行きを出そうとしている過去の私。もっと早くこの本を読んでいれば、もっとああしたりこうしたりできたのに・・・。
シンプルといいつつも、やはり新鮮味や刺激が欲しいと思うのは三原氏も我々と一緒。様々な小物や刺繍、紋での楽しみ方をレクチャ―してくれています。しかし着物男子の私が一番心ときめいたのは、長襦袢のカラーで遊ぶという提案。
着物とのグラデーションでシックに、時にはメリハリをつけて。色も柄も盛り過ぎには気を付けて、スタイリングが完成したら鏡で全身を客観的にチェックするのを忘れずに!と氏はおっしゃっています。
本書では三原氏の他に、インタビューに答える形式で数人の方が各々の美意識を紹介しているページがあります。皆さんの素敵なこだわり、確固たるスタイルも美しかったのですが、特に印象的だった部分のみをご紹介します。
「感激したのは”襲(かさね)の色目”といって、身にまとう着物と帯、小物などの色合わせで、季節を表わす着こなしです。自分の身につけるものに四季を織り込む、そんな感性豊かなおしゃれが、いつかできたらと憧れています」 みんなのシンプルスタイルより、桑木真衣さんの言葉を一部抜粋
四季を織り込む、好きな言葉です。しばらく反芻してしまいました。
シンプルとは、毎日おんなじ、退屈に服を着ることではない。キャンバスは平らでまっさらな方が、好きなように絵が描けるのと一緒。シンプルコーデ、どれだけ楽しんでも楽しみ尽くせない雰囲気をびしびし感じます。
どんだけ奥が深いねん、な私の心境。
羽織・小物
羽織ものについての美学も、参考になるものから真似したくなるものまで盛りだくさん。
羽織の丈や襟幅、裾のシルエットにまで一家言ある三原氏。そんなところにまでで意識を向けたことのない私は、「長羽織って格好いいよね」くらいに考えて羽織を仕立てていたのですが、なんだか無性にもったいなく感じます。シンプルにするからこそ、細部に意識を向けることができるし、その些細な違いが際立つ。
そして自作されたという着物コート!めちゃくちゃ格好いい!欲しいです。調べたところ商品化はされていないようなので、載っている写真をいつも頼む和裁士さんに見てもらって、無理言って作ってもらいたいです(なんて迷惑な客)。
使われている小物も紹介されていました。
シンプルかつ美しい愛用品が目白押し。傘や手袋、バックなど、着物に合わせた厳しい基準をクリアした猛者ばかり。選考基準も具体的で小物選びの参考になる一方、魅力的な言葉でまとめられているので物欲が刺激されるところは注意です。私はこれから黒い革手袋を新調すべくネットをさまよおうと思います。
買い物は考えている時が一番楽しいですよね。
より深いところへ
本書では、三原氏が愛用しているシンプルな着物の素材、生地自体についても触れられています。ちりめんや生布、サマーウールなど本当に様々なテキスタイルが、四季折々の場面とともに。ご本人の愛用しているものばかりを、着心地や涼しさ、暖かさや質感など、熟練者の視点から魅力的に紹介しているのは、参考になるばかりでなく少々目に毒です。
特に結城紬の紹介は、物欲を抑えるために情報を遮断している着物ミニマリストには眩しすぎました。墨紫色の紬を愛用されているという、私の好みとシンクロされた方の愛用する結城紬。憧れるだけの遠い存在に感じていましたが、手に取ってみるタイミングなのかもしれません・・・。高いけどなぁ、結城紬。でも、古着屋で探すくらいならいいよね。
綺麗な発色の十日町紬。訳あって手放してしまいましたが、紬独特の風合いは素朴かつ美しいです。
ディテールにも強いこだわりがあるようで、気に入ったひとつの型があれば繰り返して使い、馴染んでくれば微妙に違うデザインで試すとのこと。これはミニマリストにも通ずる、洗練されたスタイルを確立する、そしてなにより、自分らしくいる上で大切なことのように感じます。
半襟の微妙な色味や隠れて見えない腰紐の色柄、果ては足袋のコハゼの数やきれいに見える履き方など。すぐに真似はできないけれど、向き合ってきた時間の積み重ね、年輪のようなものを感じる着物との付き合い方は、憧れます。
しかし、着物への造詣が深い三原氏、どうやらこだわりが強いだけというわけでもないようなのです。
若い頃と違ってきた肌色になじむよう、半襟の色を変えてみたり。~中略~大切なのは、自分の感覚に素直に向き合うこと。ストイックにこだわるというより、おもしろがり、愛おしんでいく感じです。
ファッションにも、ミニマリズムにも、ストイックでいることが格好いいと感じがちな私。しかし肌は徐々に変化し、いつか陰りも表れるもの。きっと私のスタイルも同じです。それに抵抗するのではなく、受け入れることができれば、肩の力を抜いて生きていけそうな気がします。
なんだか、年を重ねることが楽しみになってきました。本のお陰か、それとも着物本来の魅力に気付かせてもらえたからなのか。どちらにしても、ゆっくり楽しく、着物と付き合っていけそうです。
他にも盛りだくさん
他にも語りたい魅力的な文章や情報がたくさんあるんです。着物を着尽くすこと、着物を傷めない所作、著者以外の方の美学や考え方。女性なら美しい着付け方や髪型、小物使いなんてところも絶対好きなはず!
一度、この小さな本の中の、深く美しい世界を覗いてみてほしいです。
結び
始めのところで、この本の内容は私の美意識との共通点があると書きました。しかし、私は浅瀬でちゃぷちゃぷ水遊びをしているだけの着物3歳児。スキューバダイビングのような楽しみ方には至れていません。
いつかきっと、こんな風に愉しめる素敵な大人に、私はなりたい。
終わり。