「欲しい着物がないなら、作ればいいじゃない」
そんな思いからスタートした、好みの布を見つけて着物に仕立てる旅の第2話(前記事はこちら)。今回は、買ってきた布を着物に誂えてもらうための、和裁士さんに依頼する流れについて話していこうと思います。
この記事をお読みになれば、実際に何着も和裁士さんに仕立てを依頼している筆者の体験や着物生活6年目の経験とともに、和裁士へ着物の仕立てを依頼する具体的な方法を知ることが出来ます。
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和裁士に依頼する具体的な流れ
和裁士、つまり着物を縫う伝統技法の職人に依頼をするなんて、緊張しますよね。こっちは素人の一般人で、相手は高級呉服店などのプロを相手にしているのですから、どうやってコンタクトをとればいいのか、そもそも連絡をとっていいのかすら、分からないのが普通です。
ですがご安心ください。和裁士さんは、決して『山奥の武家屋敷の奥に座り、しかめっつらでひたすら着物を縫い続けている頑固おやじ』のような人ではありません。洋服の裾直しやクリーニングをお願いするくらいの気楽さで、着物の仕立てを依頼すればいいのです。
ここで問題となるのが、どうやって和裁士と連絡をとるか、ですよね。まずはそこから、詳しく説明いたしましょう。「和裁士に依頼する前に、どうやって着物用の布地を買えばいいのかを知りたい」という方は、先にこちらの記事をご確認ください。
ネットで依頼
さきほどもお伝えしましたが、和裁士さんの工房は決してネットも通じない人里離れた山林にあるわけではないので、普通に連絡をとることができます。お店を調べて直接訪問することもできますが、私はインターネットを通じて依頼することをおすすめします。
まずはお住まいの地域で着物の仕立てをしているお店を検索してみましょう。わたしがいつもお願いしている和裁士さんとは、SNSを通じて個人的に知り合いました。探してみると、ホームページやtwitterなどで発信をされている和裁士さんはたくさんいらっしゃいます(参考までに、わたしがお願いしている名古屋の和裁士さんのホームページとSNSです)。
店舗に足を運んだり電話をするのは億劫という方は多いと思います。The職人ないかついおじさんだったらと怖気づいてしまうこともあるかもしれません。ですが、SNSやメールでのやりとりなら気持ちも軽くなるというもの。必要な情報は文章で残りますから、仕立てに必要な布の長さなどを問い合わせる際にも、電話より文章でのやりとりをおすすめします。
連絡を取るタイミングは、着物に仕立てたい反物を買った後でもいいですし、生地を㎝単位で購入できる大塚屋のような店で買うつもりならば、先に和裁士さんに相談も兼ねて連絡をしておいた方がいいでしょう。
実際に会う
素敵な生地をゲットした後は、実際に和裁士さんの工房にお邪魔します。
生地を手渡すだけじゃなく、着物をジャストサイズで仕立てるための採寸をしてもらったりします。なので、寸法を測りづらいファッションで行くのはやめた方がいいでしょう。
ここで大切なのが、こちらから「細身に見えるように着たい」だとか、「ここの柄が正面に来るように仕立てて欲しい」だとか、文章では伝えきれない細かな注文、わがままをしっかり和裁士さんに伝えること!まったく知識がなくて自分から注文なんてできない、という方もご安心ください。和裁士さん、つまりオーダーメイドのプロの側から、色々質問してくれます。それに答えるだけでオッケーです。
具体的な日程調整は、美容院の予約や友人との約束と一緒です。なにも恐れる必要はありません。実際に仕立てるかどうかも、見積もりの金額を教えてもらってから決めればいいので、自分には高額過ぎると感じたらいったん保留にして、布を持ち帰って家でじっくり考えましょう。
お仕立てにどのくらいお金がかかるのかは、和裁士さんによって異なるでしょうし、仕立てる着物の種類によっても変わります。わたしがお願いしているところでは、3万円~4万円くらいでしょうか。詳細は私が仕立てを頼んでいる和裁士さんのHPでご確認ください。
なぜ和裁士に依頼するのか
着物が欲しいとなった時、まずは着物屋・呉服屋に行くのが主流でしょう。茶道でいうなら裏千家といったところで、さしずめ直接和裁士に依頼するのは武者小路千家でしょうか。
なぜ私が和裁士さんに依頼するようになったのか、理由はこちらで述べておりますので、ここでは和裁士さんに依頼することのメリットについて語っていこうと思います。
中間業者を省くと安く済む
これは分かりやすいですよね。ファッション業界で昨今話題のD2C(Direct-to-Consumer)というのに近いです。
着物屋さんは着物をひとつ我々に届けるだけでも、かなりの労力、コストを支払っています。目利きして、織り元と交渉して、反物を店舗に搬入して、陳列して、保管して、接客して、採寸して、注文された反物を和裁士へ送って、仕立てられた着物を受け取り、保管して、客に手渡す。店舗には家賃、光熱費がかかりますし、集客のための広告費もばかになりません。スタッフには給料も必要です。着物屋から着物を買うということは、着物に付随するこれだけのコストも、わたしたち消費者側が支払うことになります。
和裁士さんに直接依頼するのであれば、さきほど述べたコストを丸ごとカットできます。自分で布地を探したり和裁士さんとコンタクトをとったりする労力を差し引いても、こちらの方がお得なのは明らかでしょう(布地を探すことを労力といいましたが、個人的にはこの宝探しが楽しいのです)。
ただ、着物屋さんにも大きな魅力があるのは言うまでもありません。が、誤解を招かないために補足しておきます。一般人では直接買い付けられないような素敵な反物、素人では見過ごしてしまうところをすくい上げるプロの目利き、買い物の体験という付加価値など、店舗独自の魅力も楽しんでいただければと思う次第です。
中間業者を省くと円滑に進む
和裁士さんと直接やりとりすることをおすすめする理由の二つ目は、行き違いが生まれづらいから、です。要望や細かな注文が正しく着物に反映される、と言ってもいいかもしれません。
例えば寸法について。
着物屋さんでは、スタッフが客の身体にメジャーをあて適切なサイズを測ってくれます。ただ、このスタッフさんはいわゆる販売員、またはバイヤーであり(もちろん着付けや仕立ての知識のある方も大勢いらっしゃるでしょうが・・・)、『適切に』測るというところで行き違いが生まれる可能性があります。
わたしたち消費者の知識が不足していれば、自分が理想とする寸法ではなく着物業界の『一般的』な寸法で着物の仕立てを注文されることになります。仮に、我々が微に入り細に入り「こんな風にしたい!」と鼻息荒く、気炎を上げてスタッフさんにお伝えしたとしても、それが正しく和裁士さんに伝わるとも限りません。伝言ゲームのようになることもあれば、単純に採寸が甘いこともあるからです。
仕立てあがった着物を受け取りに行ったら「思ってたのと違う!」なんてこと、本当にあるのです。高級呉服と銘打っている着物屋さんに学生アルバイトのような接客をするスタッフがいたりする業界ですから、高いものを売っているからといって店のレベルも高いわけではない、ということを、肝に銘じておきましょう。
和裁士さんが採寸する場合、直接やりとりするので行き違いが起こる可能性はうんと低くなります。
また、和裁士さんは「体型」だけでなく、「どんな用途で着るのか」「どんな着姿になりたいのか」など、わたしたち自身が気づいていなかった要望を含む様々な情報を収集し、一般的な寸法に囚われることなく、それら全てを着物に反映してくれます。
わたしたちは、和裁士というガイド同伴で、自分好みの着物について深く深く追求していくことができるのです。
直接職人と相談できる
これは分かりやすいですが、少し抽象的ですね。ひとつ、わたしの経験を述べてみましょう。
わたしの腕は標準より長く、逆にウエストは細いのですが、そうすると着物の構造上どちらかを犠牲にすることになります。「袖を長くしようとすると腰回りがゆるくなる」。そうかと言って反対にすると「ウエストがぴったりだけど腕がつんつるてん」になってしまう。あっちを立てればこっちが立たない、というわけです。
そんな体型のわたしが初めて着物を仕立ててもらったのは、毎日着物を着ていることを売りにしている男性が営む、とある着物屋。ここがまあ適当でした。わたしの身体を三か所ほどメジャーでさらっと測って、それで採寸はおしまい。特に私に要望を聞くことなく注文票に寸法を記載してお疲れさまでした、という具合です。出来上がった着物は、袖を十分に長くしたために前合わせがガバガバで、胸元が大きくはだけてしまう。誂えた着物よりも古着の方がぴしっと着れるので、まだ慣れていない私は「自分は着付けが下手なんじゃないか」と随分悩みました。
その後、かなりの時間を経て、問題の着物の仕立て直しを和裁士さんに依頼しました(問題の着物屋に最初は相談したのですが、「仕立て直し代○○円いただきます」という対応しかしてもらえませんでしたので・・・)。和裁士さんと直接やりとりする中で、私の悩みや身体の特徴、どんな着姿にしたいかをじっくり話し合い、細かく採寸をしてもらい、最終的に『こう仕立てればあなたの身体に合うんじゃないか』と提案をしてもらいました。
具体的に言うと、『通常は直線で縫うところを、傾斜をつけて縫っていく』というものでした。なにやら難しい技術が必要そうだ、くらいの理解でしたが、二つ返事でOKし、仕立て直してもらうことに。その結果、着物は私にどんぴしゃ合う寸法に生まれかわり、今でもお気に入りの一着としてクローゼットに鎮座しています。
結び
着物を誂える。それはとても素敵なことですが、決して一世一代の大仕事というわけではありません。呉服屋に頼まなければ手に入れられない思い込むことなく、フラットな視点と気軽な気持ちで、和裁士さんに一度相談してみてはいかがでしょう。
マイサイズの着物を着るということは、時間がない中で適当に着ても、風が強い日でも、夏祭りの人混みにぐちゃぐちゃにもまれても、「着崩れてみっともなくないかしら」なんて心配をせずに過ごせるということ。
好きな布地で着物を作るということは、自分の感性に合うものを身につけ、肌に触れ、眺め、その美しさをまとって日々暮らすということ。
今回わたしが皆さんにお話ししたことは、何気ない暮らしの中で、着心地のいい着物をまとう時間を作りましょう。突き詰めればそれだけの、他愛のない話なのでした。
みなさんの暮らしが、一層すてきなものになりますように。
おわり